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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)302号 判決 1968年7月18日

控訴人 正栄食品工業株式会社

被控訴人 更生会社昭和鉄工株式会社管財人 飯塚幸三郎

主文

原判決を取消す。

本件を横浜地方裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。控訴人が更生会社昭和鉄工株式会社に対し金四、三七一、五一五円の更正債権を有することを確定する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、左に記載するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は「控訴人は、本件手形債権につき昭和四〇年六月一九日到達の内容証明郵便で更生会社にその償還請求をなして以来、昭和四〇年九月二〇日の本件債権届出に至る迄、再三、再四、更生会社に対し、その支払を求めたところ、更生会社側は、係員が不在であるとか、後で挨拶するとかと称し、言を左右にして巧妙に引延し、故意に同会社が更生手続開始の決定を受けた事実を隠していた。

会社更生法四七条二項の書面送達の規定は強行規定である上、本来、公告制度は主として債権者の不明なものを対象とする制度であつて、本件のように更生会社が知れたる債権者を排除する挙に出た場合は、当然、同法一二七条の例外的救済の適用により、その届出を認むべきである。」と述べ、被控訴代理人は右控訴人主張を争うと述べた。

理由

一、訴外昭和鉄工株式会社が、横浜地方裁判所昭和四〇年(ミ)第二号会社更正事件につき、同裁判所から、同年六月一七日午後一時、更生手続開始決定を受けて、いわゆる更生会社となり、被控訴人が現在同会社の管財人であること、控訴人が、原判決添付目録記載の約束手形五通を所持しているとして、昭和四〇年九月二〇日、前記更正事件につき、その主張の右手形金及び損害金合計四、三七一、五一五円を更生債権として届出たところ、昭和四一年三月一一日午後三時の債権特別調査期日において、管財人である被控訴人がその債権全額について異議を述べたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、本訴が右異議を除去すべく提起されたものであることは明らかである。

二、被控訴人は、控訴人の右届出は、昭和四〇年七月二〇日迄と定められた届出期間経過後になされたものであつて、これにつき会社更生法一二七条の要件を具備しないものであるから、不適法であり、前記異議は右の理由においても述べたものであると主張して、届出自体の効力を争つているので、以下に検討する。

控訴人のした前記届出が被控訴人主張のように、届出期間経過後になされたものであることは当事者間に争いがないが、右届出が会社更生法一二七条一項の規定によるものとしてなされたことは弁論の全趣旨により明らかであつて、このように、同条項の規定によるものとして債権の届出がなされる場合には(一)一般調査期日前になされる場合と、(二)一般調査期日後になされる場合との二つの場合があり、いずれの場合も、裁判所はその届出が同条項にいう「その責に帰することのできない事由」その他の要件を具備しているかどうかを審査すべきであるが、その届出が前記(一)の場合のものであるときは、右要件を具備していない不適法のものであつても、期間後届出の瑕疵は、一般調査期日において管財人及び更生債権者らの関係人(以下、一括して管財人らという)が同期日に当該届出債権について調査することに異議のないことにより、治癒されるのであるから、裁判所は、前記審査の結果如何にかかわりなく、一応、その届出債権についても一般調査期日を開いた上、同期日にこれについて調査をすることに異議がないかどうかを出頭の管財人らに諮るものである。そして、右(一)の場合のうち一般調査期日に調査することに管財人らの異議があつたとき並びにその届出が一般調査期日後になされた前記(二)の場合については、裁判所は、前記要件の具備の有無に対する審査の結果により、その要件が具備されていると認めるときは、その届出債権について、債権の内容、議決権の額、優先権のあること又は劣後的であることの調査をするため、当該届出債権者の費用負担において、特別調査期日を開かなければならず、また、前記の要件が具備されていると認めないときは、その届出債権について特別調査期日を開かないのであつて(これにより、当該届出債権は、確定の途がないため、失権することとなる)、右のいずれの場合においても管財人ら、或いは、当該届出債権者は、裁判所が右届出債権について特別調査期日を開き、或いは、開かないこととした措置に対し不服を申立てることができない。右届出が前記の要件を具備しない場合におけるその瑕疵は、一般調査期日の場合と異なり特別調査期日で同債権について調査することについて管財人らの異議のないことによつて、治癒されると解すべき法律上の根拠はないから、裁判所において、右瑕疵が管財人らの異議のないことによつて治癒される場合のあることを予想して、当該債権について、特別調査期日を開くことも、考えられない。以上によつてみれば、本件のように、会社更生法一二七条一項によるものとして届出られた債権について、その調査のため、特別調査期日が開かれた以上は、一般に、裁判所が右届出について同条項の要件を具備しているものとして取扱つたことになるものというべく、右届出が前記の要件を具備しているかどうかの点に対する管財人らの異議の有無は問題とされる余地がないといわなければならない。従つて、同期日において管財人らが右の点について異議を述べても、その異議は更生債権としての確定に支障を来すものではない。被控訴人は、本件の場合においては控訴人の届出を含む一般調査期日後の債権届出について、更生裁判所たる横浜地方裁判所民事第三部は、自ら右各届出が会社更生法一二七条の要件を満たしているかどうかを調査して受理するか却下するかを定めることをせず、すべてを一応受理して、手続上の要件の存否及び実体上の権利の有無を特別調査期日において調査することとし、前記の特別調査期日を開いたもののように主張するが、右主張を認めるに足る的確な証拠は存しない。しからば、被控訴人が本件届出債権につき特別調査期日において届出期間経過後の不適法なものであることを理由としてなしたという異議は、本件更生債権確定訴訟で除去されねばならぬ異議に該当しないし、また、被控訴人が本訴で更めて右理由により前記届出を不適法であると主張することも許されないものと解すべきである。

それ故、この点についての被控訴人の抗弁は採用するに由ない。

三、右に説示したところによれば、原審が被控訴人の前記の点についての抗弁を容れ、控訴人の本件更生債権届出は不適法であつて、いわゆる失権債権として訴をもつて確定する法律的利益を奪われたものであるとし、よつて、本案に触れることを省略して、本訴請求を棄却すべきものとしたのは、失当である。そして、右原審判決は、控訴人の本訴請求を請求棄却の表現のもとに排斥しているが、その実質は、訴を不適法として却下したものと解するのが相当であるから、民訴法三八八条により、原判決を取消して、本件を原裁判所に差戻すべきものと認める。よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野沢龍雄 田中永司 大石忠生)

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